日光温泉
町の人たちが毎日入りに来る温泉が町の外れにある。
 熱い湯である。足の指先をそっと湯に入れ温度を確かめてみる。電光に打たれたように湯のエネルギーが体全体に染みわたる。5〜6人が入れば、一杯になるような狭い風呂だが,この湯は秘湯だと思う。疲れが一挙に取れる。
 体が温まるのは当然だが、温泉に入った夜は,良い夢を見る、鼾をかかないとも言う。
 頭が冴えて、幾つものアイディアが湯水のごとく湧いてくる。
 町の人たちは皆顔見知りだ。何処の娘が嫁に行った。何処そこの息子が進学したと話し合う。この人たちが確かな町を継承する人々だと思う。血の通い合った話し合いの中で町が出来上がれば、次世代に抵抗なく引き継がれていくだろうと思う。
 たまに、オートバイに乗った少年や旅人達も旅の途中で立ち寄る。
 この秘湯は、多くの人には教えたくないが、あの湯の良さは入ってみなくてはわからないだろう。封建的な町の想念の中に暮らす人たちが、なにを望んで、何を明日の糧にしているだろうかと思うだけでも、気もそぞろになる。杉木立の向こうを走る東武電車やJRが客を一杯乗せてくる時代は過ぎ去ったのかも知れないが、この温泉だけは、人々に霊験あらたかな健康を約束してくれると思う。

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